エリーのハードボイルド日記 その伍拾

今を当たり前だと思わずに奇跡的だと思って生きればいい、ということだ。
人は常に過去になりうる今を造り出している。例えば、歳の違う誰かをかばうかも知れないし、やっかむかも知れない。
けれどそのどれもが、通ってきた道であり、いつか通る道でもある。
今この瞬間の俺は次の瞬間に過去になる。
誰でも道を踏み外すことは簡単だ。
感情や情動に任せて凶器を持つかも知れない。はたまた凶器を振りかざすかも知れない。逆もまた然別かも知れない。
つまり、凶器を振りかざされるかも知れない。ふとブレーキを踏み損ねるかも知れないし、一瞬気をとられて何かや誰かにぶつかるかも知れない。触ってもない痴漢の容疑で捕まるかも知れない。自分から望んでもそこへ行けるし、望まなくても被るかも知れない。いつ被害者や加害者になるとも限らない。今生きているその今を当たり前のように思っている人が多いだろうが、それは今を継続できている努力の賜物なのだ。
そう。今を維持できていることは、当たり前じゃなくて、特別なんだ。
毎日がスペシャル。
奇跡の塊だと思って生きれたらと思う。
機能を失い、障害を抱えたとしても変わりない。その残された機能の範囲で新しいスペシャルが待っているはずだ。
毎日って奇跡の連続だ。
未来って、希望の先にしか存在しないんだぜ。
その点では俺の毎日もスペシャルだろう。
スペシャルがあってこその毎日だし、スペシャルを生み出す努力もしている。
スペシャルに感謝だ。

おっと。電話だ。ちょっと待ってろ。
…おう。俺だ…え？溶け残った雪が？固まってて？怖い？…おいおい、雪かきしたろ？…え？ベランダ？…それ、今する話？…違うよね？…ベランダに積もった雪でベランダが落ちる？…ないない。屋根は危険だけどな。どのみち屋根もないない。
…え？退屈だ？
…だろうな。退屈しのぎの連絡だよな。
…え？帰りがけに俺が滑って転んだら？痛いだろうな？…そりゃ痛いだろうな。
…え？凍って尖ってる雪もある？気を付けろ？…おいおい、それは振りか？転べってことか？…え？俺のために？様々なトラップを仕掛けている？…おいおい、シャレにならんぜ？
…え？クリアできたら？つまり、無事帰って来れたら？…
…え？…なんもないんかーい！
…え？…おやすみ…
…ふう。毎日がスペッシャルだぜ。

7