父として……の話
「もっと、こう、何て言うか、こうさ、色々一緒にね、やってあげたいなぁって、思ったりするんだ。父親としてさ」
「うちの子、男の子だからさ。ほら、普通ならさ、男の子ならお父さんとあれしたいこれしたいって思うんだろうなって」
「お父さんと男の子って、ね、キャッチボールとかしたりするわけでしょ。男の子だったらさ、そうして欲しいんだろうなって」
先日訪れたお客さんが、話してくれたことです。酔ってはいたけれど、その時だけは至極真面目な顔で。
小さな男の子にとってはお父さんってヒーローなのでしょうね。或いはヒーローであって欲しい存在と言うかな。
それはそれで解るのですけれど。
お酒に酔って、それでも真面目にそんな話をする“父”としての男。
間違いなく、真剣に父親をやっている男の顔だったのです。
だったら、別に一緒にキャッチボールしたりサッカーしたりできなくても良いんじゃない?って思うわけです。
その話をした時にはロクな返しができなかったけれど、今ならハッキリと言ってあげたい。
『そのままで、良いんじゃない?』って。
真剣に向き合ってくれる父親なら、子は充分に手応えを感じているはず。父親からたくさん受け取っていることがあるはず。誇りに思うはず。
それで良いじゃない?
残念なことかもしれないけれど、人は皆、それぞれの背景とか問題とか抱えて、折り合いつけながら生きているのだと、そう思うのです。
100mを走るのに18秒かかる人が10秒で走ろうってのは、まぁ無理なわけで。
でも18秒かかっても、素敵に走ることはできると、そう思うわけです。
今、素敵な父親なんだから、そのままで良いんじゃない?
偉そうなこと言える立場じゃないんですけどね、私も……
鴻の親父(おおとりのおやじ)
男性/66歳/埼玉県/居酒屋やってます
2018-05-07 11:32