夢を語った人の想ひ出
夢がテーマだった今日の掲示板を読み流していたら、昔、短い期間だったけれどお世話になったある男のことを思い出しました。
今から47年前、私は某コンビニでバイトしていました。その店に本部から派遣されてきた店長、30代の前半にして頭がツルツルで、でも眼差しがとても優しくて、カラオケで上手に歌えるオジさん。
ある時、コンビニ仕事を放ったらかして店長が話し始めました。
『鴻君、僕はね四年前にね、埼玉の白岡っていう所に住宅用の土地を買ったんだよ』
当時の白岡は今の街の姿が想像できないほどの田舎で……
「え?あんな所にですか?」
『そうそう、あんな所になんだよ』
「リタイアしたら終の住処にしようということで?」
『違う、そこに住む気はないんだ』
「…………」
『これからはね、日本の土地はどんどん高くなるよ。特に東京の周辺の田舎町が僕みたいなサラリーマンにはちょうど良い』
「だって、住む気は無いんですよね?」
『うん、無いよ。3,000万円の値が付いたら売るんだよ』
「ほほぅ〜」
『僕が3,000万円で何をしようと考えているか、鴻君、君に判るか?』
そんなん、判るわけないですがな。
『3,000万円でね、まずは大型のキャンピングトレーラと、それを牽引する車を買うんだ。調べたら1,200万円程で買える。残りの1,800万円でね、三年かけて日本中を女房とふたりで旅をするんだ。これが僕の夢なんだ』
「旅が終わったら、どうします?」
『旅の間にひとつくらい“ここに住みたい”って町が見つかるだろ。そこへ行くんだ。女房とそこへ行って、キャンピングトレーラも売って、アパートでも借りて女房と暮らす。仕事はなんでもいいから探す。町工場でも何でもいい。夢の後なんだから、もう何でもいいんだ』
当時22歳だった私にはちょっとしたカルチャーショック。そんな生き方もあるんだ……と感慨にふけったものでした。
あの店長さん、夢は実現できたかな。それとも夢は見ただけで……
今ご存命なら80歳くらいのはず。
会いたいなぁ……
鴻の親父(おおとりのおやじ)
男性/66歳/埼玉県/居酒屋やってます
2018-06-06 23:22