50歳過ぎて居酒屋始めたバカですけど。
ずっとバカだったんですよ。
目出度く浪人せずに大学生になって、ハメ外すこと覚えて、それからずっとバカ。
当時、新宿歌舞伎町のビルの地下一階にCHOというパブが在って、バイトのお金が入るとなけなしの数万円を握りしめて仲間たちとCHOに行くわけです。お酒の嗜み方なんて知らないから調子にのってさ。「ちょっと外の空気吸ってくるから」と言って地上に出ようと。その途中で意識が飛んだんですね。
身体が痛くって目覚めると階段の途中で寝てる自分がいるわけです。時間は朝の4時。店に戻ると「お連れさんもうとっくにお帰りになりましたよ」って。
え〜⁈あいつら、階段で寝てるオレを放ったらかしで帰ったのかよ……
バカだよねぇ。階段で寝る酔っ払いの若造もバカだし、そいつをそのまま置いて帰る奴らもバカ。
昼頃やっと学校に行って、奴らと会うなりお互いに大笑い。バカでしょ?
でもね、私が一生涯付き合っていけるだろうなと思える友達って、アイツらだけなんですよ。
26歳で広告関係の仕事について、それからは楽しくてしょうがなかった。
自分が書いた僅か10頁ほどの企画書で世間に名だたる大企業が新規事業始めてみたり……
「この事業は先細りで、止めるなら今のうちです」と言えば本当にその事業から撤退してしまったり……
そんなことを30歳から35歳くらいの頃に何回も経験すると、やっぱり天狗になるわけです。「オレは世の中を動かしてる」みたいな、ね。
バカでしょ?
調子にのって40歳で会社を辞めて、自分の事務所を持ったりしてね。バカだよね、そのまま会社にいても良かったのにさ。それからずっと自営業。
50歳過ぎて、ある時、突然に広告の仕事がつまらなくなったんです。たぶん情熱を使い果たしたんだなって、自分でそう納得して。
そんな半端な気持ちでは続けられず、世の中そんなに甘くないからね。
で、56歳にして居酒屋開業と。
バカだよね。今時、初老の男がひとりでやってる居酒屋が繁盛するわけないのに。お酒に詳しいわけでもないし、料理が上手いわけでもない。色気もない。そんな店に誰が来るのさ。
バカでしょ?
最後に……
あのさ、バカって言葉を『他人をコケにするだけの意味しかない単語』としか捉えてないんだったら、ホントのバカになっちまうよ。
鴻の親父(おおとりのおやじ)
男性/66歳/埼玉県/居酒屋やってます
2018-08-20 11:42