巨匠と師匠
本部長、秘書、お疲れさまです。
案件ですが、大げさに言えば人生を変えた手紙があります。宮崎駿監督から頂いた手紙です。
35年前、高校3年生で映画の世界を目指していた私は大学進学よりもっと違う道があるのではと悩んでいました。ちょうどその頃観た「風の谷のナウシカ」に強烈な衝撃を受け「これからは実写映画ではなくアニメーションの時代なのかも知れない」と節操なく思った私は、宮崎駿さんを勝手に師匠と仰ぎ、あろうことか高校卒業したら弟子入りしたいという手紙を出版社あてに出してしまったんです。本当に若いって怖いですね。よくそんなこと考えたものです。
ところが。手紙を出して1週間も経たないその日、学校から帰ると1通の封書が。裏には宮崎駿さんのお名前とご自宅の住所が書いてありました。
慌てて開くと、「ナウシカ」の絵コンテで見覚えのある、独特のクセのある文字が便せん3枚にびっしりと書き込まれていました。
内容は、私が志望している映画業界の現状や若手の育ち方などについて説明し、その上で「大学に進学出来るという余裕があるというのは、それは社会の余剰として4年間存在出来るということ。余剰というものはすぐ必要とされる存在ではないが、だからこそ社会と独自の視点で関わることが出来る。余剰になれる4年間があるのなら余剰になりなさい。それが貴君のためになる」と綴られていました。
驚いた、なんて生やさしい気持ちではありませんでしたが、何度も何度も読み返しました。
その後私は「余剰」の意味を考えながら大学へ進み、現在は、映画とは違うものの、映像に関わる仕事をしています。
数年前、この事を思い返して宮崎駿さんに改めてお礼の手紙を書き、人生のターニングポイントとなったことを報告しました。さすがにもうお返事はありませんでしたが、それで十分満足しています。あの日のあの手紙以来、宮崎駿さんは「私の師匠」なのです。一方的ですが。
ウニ年生まれの猫
男性/58歳/熊本県/会社員
2018-12-13 13:22