女盗賊メアリー その壱
メアリーは女盗賊のお頭だった。
メアリーの住む長屋の床下には百万両が眠っていた。
ある日、隣に住むハイジの様子が朝からおかしいのでメアリーは気になっていた。
妙にソワソワしている。
仲間内でも、ハイジは気が弱いことで知られていた。メアリーは盗賊の仕事をする時には、なるべくハイジから目を離さないようにしていた。
盗みという仕事は、小さなミスが仲間全員の命取りに繋がるからだ。
もしヘマでもさせたらハイジはもちろん、だいじな盗賊仲間全員が終わってしまう。
最近、お上が特別編成した火付盗賊アラタメのカシラ長谷川平蔵は、なかなかソツのないやり手のようだ。ヤツに目をつけられたら先々仕事がやりにくくなる。
ハイジの盗賊の役目は『見張り』だった。
その向かいに住んでいるクララは、情報収集役だ。
クララは昔は足が悪く歩けなかったが、ハイジが親身にリハビリに付き合い、歩けるようになった。するとミルミル歩くことが好きになった。南アルプスまで天然水を汲みに行くほどだ。今ではすっかり丈夫になったその足で集める情報は、見事なほどに緻密であった。
クララの隣に住むのは、盗みに入る屋敷の図面を作るセバスチャンだ。
その隣には、盗みに入った屋敷の主人が暴れた時に羽交い締めにして抑える役目の、大柄なオンジだ。
殺さないのがメアリー 一味の鉄則だった。盗みの王道を行くメアリー 一味だった。
… そう、その長屋は盗賊一味が市井の人を装って暮らす盗賊長屋だったのである。
くみ
女性/65歳/東京都/黄色くみ広報室長
2019-01-25 08:54