女盗賊メアリー その三
長屋のハイジの家にやってきたのは、ハイジの故郷・南アルプス村の幼なじみのペーターだった。
ペーターもまた南アルプスで1・2を競う盗賊で、身が軽いことから「風船のペーター」と呼ばれていた。
このところ、ハイジがソワソワ、フワフワしていた原因はこれだったのだ。
ハイジは、小さい頃から南アルプスの草原を共に駆け回り、大きなモミの木に登っては仲良く遊んだペーターにいつしか恋ごころを抱いていた。
その風船のペーターが、江戸へやってきたのにはワケがあった。
ペーターは盗賊の足を洗いたかった。
そして、子どもの頃、家の貧しさからアルバイトでやっていたカタギの羊飼いに戻ろうとしたのだ。
だが、羊飼いには年齢制限があった。
南アルプス村の条例では、13歳定年だったのだ。
羊飼いは、羊などの家畜や野山の草花などの自然に与える影響から、純朴な子どもであることが要求されたのだ。
まもなく13歳になる風船のペーターには、先のない仕事だった。
こうなったら盗賊を続けるしかない… とあきらめたペーターは、幼なじみのハイジを頼って江戸に出てきたのだった。
焼き鳥の串で穴を開けた壁に張り付いて、メアリーは、ハイジと風船のペーターとの話を一部始終聞いていた。
くみ
女性/65歳/東京都/黄色くみ広報室長
2019-01-25 11:57