女盗賊メアリー そのハ(最終回)
丑の刻。
それぞれが配置についた。
それぞれが、脳裏にこの大仕事をやり終えた後の夢を描いていた。
クララは、この仕事を終えたら分け前を受け取って故郷ザルツブルグへ戻るつもりだった。足が悪かった時にお世話になった車椅子に関わる仕事がしたかった。より高機能の車椅子を製造する会社を作ろうと思っていた。
セバスチャンは、大好きなロバを買い、カタギになって全国を回る行商の旅に出るつもりだった。たくさんの人と出会いたかった。
オンジは、愛犬ヨーゼフが待つ南アルプス村を一望する山小屋に戻って、江戸で工法を覚えた絶品チーズを作り、道の駅で売ってみようと思っていた。おいしいものをおいしい環境で食べてもらい、人々を笑顔にしたかった。
ペーターとハイジは、二人の羊飼いの経験から、羊毛から毛糸を作り、暖かいセーターを作って安く販売しようと話し合っていた。人々を温めてあげたかったのだ。そして、軌道に乗ったら夫婦になろうと決めていた。
メアリーは…
メアリーは、息子のネロが自分のしたことで笑顔になる、それだけでよかった。
その後のことは何も考えていなかった。
それぞれがそれぞれの明日への想いを抱き、自分の仕事をすべく集中していた。
今、作戦『TFM』が始まる!
皆、息を殺してメアリーのGOサインを待った。
準備万端だ。
メアリーが、ペーターに目配せをして右手を高く上げた。
そして、その手を大きく振り下ろした!
・おしまい・
くみ
女性/65歳/東京都/黄色くみ広報室長
2019-01-27 23:12