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童話

  「穴」

 俺は、今日も穴を掘る。
 ザァッ。グゥァッ。ヴァァサッ。ザァッ。グゥァッ。ヴァァサッ。
 終わる事の無い、さだめ。
 尽きる事のない砂。
 永遠と続く、穴掘り。

 太陽が俺を溶かそうと照りつける。
 乾ききった俺から、一滴の汗が滴《したた》り落ち、砂の中に消えていく。

 俺は、何故、穴を掘り続けるのか。

「いつまで、やってるんだぁ。太陽の落とし穴でも作る気かぁ。」

 村人が俺をあざけ笑う。

 いつか、聞いた事のある遠い国では、水の街があるそうだ。
 その街の中心にある泉。
 永遠に水が湧き出る、命の源。

 この国にも泉が必要なんだ。
 ザァッ。グゥァッ。ヴァァサッ。ザァッ。グゥァッ。ヴァァサッ。

 何十年の歳月が経ち、穴を掘る理由も忘れた。
 永遠に続く時間の中、ただ、穴を掘る。

 見上げると、地上の光が届かない程の地下に居た。
 俺は、穴をよじ登る。必死に。
 信じるものも、すがるものも無い。
 ただ、穴をよじ登る。

 穴から出た世界は一変していた。
 かつての村は無くなった。
 銀色に輝く塔が立ち並ぶ。
 田畑は姿を消し、工場が連なる。
 街の中にある公園には水飲み場がある。

 道を行く人々は、誰も俺を知らない。

 俺は、スコップを持ち、また、新しい穴を掘り続ける。
 ザァッ。グゥァッ。ヴァァサッ。ザァッ。グゥァッ。ヴァァサッ。
(了)

bar亭主

男性/60歳/東京都/自営・自由業
2019-05-06 17:40

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