妹の恋
妹が高校生の頃、我が家は福岡に住んでいました。
女子高に通っていた妹、男子との出会いがないなどとぼやいていましたが、ある頃から一人の男の子が気になるようになりました。
その子は、毎朝同じバスでいっしょになる男の子。それだけではなく、妹が言うには「向こうもこっちをいつもチラチラ見ていて、絶対私に気があると思う」と、真偽のほどはともかく、アオハル真っ只中だなあと微笑ましく見てました。
しかし、結局2人ともそれ以上の行動に出ることもなく、名前も知らないまま高校を卒業、妹は東京の大学に進みました。
1年ほどが経ち、すっかり東京の生活にも慣れた頃のこと、妹が山手線の内回りに乗っていると、新宿駅で妹の電車に乗り込もうと駆け込んで来る男がいました。
ドアの側に立っていた妹は一目散に駆けてくるその様子をぼんやり見ていましたが、目の前に現れた姿にビックリ。
そう、あのバスの中の王子さまだったんです。
お互い同時に相手を指さしながら「あ、あ、あああ!」と声にならない声を上げ固まっていると「プシュー」という音とともにドアがぴしゃり。
そのまま電車は彼をホームに残したまま発車したそうです。
まるで漫画のようですが、ずいぶん興奮した様子でその後妹から電話がかかってきました。
「こんなことってあるんやねーお兄ちゃん。悔しくてねむれんとよ」とその頃にはすっかり出なくなっていた福岡弁で悔しがっていました。
「まあ、そんな偶然が起きたのならきっとまた会うことがあるよ」と慰めましたが、さすがにこんなことは2度とは起こらず、再び会うこともなく妹は別の人と結ばれ、今は2人の子どもの母親です。今でもたまにこのことを思い出して「あの時電車に引っ張り込んでたら、私、どんな人生だったのかなあ」とぼやく妹、なかなかたのしそうですよ。
ウニ年生まれの猫
男性/58歳/熊本県/会社員
2019-05-13 15:50