美学
40年くらい前、阪急(現オリックス)に『 山口高志 』というピッチャーがいた。
長嶋・王・野村など同時代の名スラッガーは みな「一番、速かったのは山口高志」と声をそろえる豪腕。
「自分は真っ直ぐを認められて入団したのだから真っ直ぐにこだわる」
実に投球の8割がストレートであった。
大きく振りかぶり、真下に振り下ろす豪快なフォーム。勢いをつけすぎて、地面を叩いて突き指したこともあるという。
それと同時に、踏み出した足を突っぱり、下半身に急制動をかける。そうすると上半身が倒れこむように、体重が乗ってさらに威力を増したという。
しかし、この投法が身体に負担をかける。
定期的に膝に溜まる水を抜き、
オフには足腰に痛み止めの針治療をする。
「そのうちぶっ壊れる」と医者やコーチからも止められたが、山口は投法を変えない。
「身長170cmの自分がプロで通用する速球を投げるにはこの投げ方しかない」
「オレの野球人生は、太く短くでええ」
数年と経たず、腰とアキレス腱を傷めてリハビリに入る。
「キャッチャーミットに球が収まる時の『スパーン!』という音で、スタンドのお客さんがどよめく。その快感は何物にも変えがたい。腕なんか折れてもいい、もう一度、お客さんをどよめかせたい」
結局、リハビリは実らず、8年で現役生活を終える。まともに活躍できた実働は4年たらず。
しかし、そこには新人王と、日本一が二回。シリーズMVPという勲章もある。
当時は「野球人生を棒に振った」とも、酷評された山口だが、40年たっても色褪せない伝説を残した。
引退後は長らくコーチとして実績を積み上げた。特に故障したピッチャーを再生させ、無理のないフォームで復活させる手腕には定評があった。
無茶なフォームで身体を壊した自身の現役時代を反面教師としたのだろうか。
何を大切に生きていくかは本人による。その生き様が『個性』というものであろう。『無事これ名馬』ばかりではないから、プロ野球は面白い。
コーギモモ
男性/58歳/神奈川県/飲食業
2019-08-04 00:47