チャコ[3]
翌年の春、母は仕事に復帰した。
半年以上もの間、仕事をせずにいたことは恐らくなかったはずだ。
「チャコ」は母さんが大好きだった。
眠るときは母とじゃなきゃだめだったし、爪を切るときも母が台所に立っているときもずっと冷蔵庫の上から降りてこようとしなかった。
だけどシャンプーだけはさすがに母も手こずった。
母に笑顔が増えた。
「チャコ」は明らかに母を癒してくれたのだ。
高校を卒業し、進学を断念した私は実家を離れ、中小企業に就職した。
実家には3年ぶりに長兄が戻り、次兄も車で20分ほどのところに住んでいた。
進学を反対された私は、家を出るまでほとんど母と話さなかった。
家計が厳しかったことも分かっていたし、持病がある母がいつまた体調を崩すか分からない。
だから仕方ない。
と諦めたのに、若気の至りか意地を張っていたのだ。
実家を出て、1人暮らしの狭いアパートで荷物をほどいていると、1枚の写真を見つけた。
前の年に私が撮った「チャコ」の写真だ。
整理箪笥の上に赤い大きなかごが置いてあって、そこが「チャコ」の特等席。
カメラを構える私に「カッコよく撮ってよ」と言わんばかりに勇ましくこちらをみる「チャコ」。
そうか、私も癒されてんだな、喉の奥がぎゅっとなった。
意地を張ってても結局決断したのは自分だ。
近くの電話ボックスからその日のうちに母に電話し、ごめんね、と言った。
「チャコ」が突然遠くへ行ってから5/17で25年。
母は今「チャコ」と暮らしてるだろうか。
我が家には勇ましくこちらをみる「チャコ」と柔らかい笑顔の母の写真が仲良く並んでいる。
今年の5月は『母の月』だと言っていた。
今日は母が美味しいと言ってくれたコロッケ、作ろうかな。
「チャコ」には好物のコーヒーフレッシュかな笑。
終。
∗うめおかか∗
女性/54歳/東京都/会社員
2020-05-17 00:36