親不孝者
3日前の夜、次兄から連絡があった。
「もう会えなくなる」と。
40年近く父親とは話をしていない。
最後に交わした言葉は今も覚えている。
「タバコ、買ってこい」
「嫌だ」
ライターを投げつけられた。
私たち兄妹が物心ついた時には父親は働いていなかった。
大酒呑みで、酒癖が悪い。
夜中にお金もないのにタクシーで帰宅したと思ったら、寝ている私たちを無理矢理起こし、恐らく『ツケ』で買った寿司折りをあけて「食え!」と言う。
眠い目を擦りながら、時には泣きながらひとつ食べて悪くもないのに「ごめんなさい」と謝った。
そんなことが何度もあった。
母が離婚届を出したのは、私が高校を卒業した次の日だった。
別居して7年
やっと書いてもらった離婚届を、娘が卒業するまでといずれ後生大事に持っていたのだろうと思うと、何だか申し訳ないような気もした。
「最後くらい会いに来たらどうだ?」
一昨日、電話の向こうの長兄の言葉を遮るように「ごめん」と伝えた。
そしてまた私は「ごめんなさい」と謝る。
父親が嫌いだったことと、
親不孝者だということを。
∗うめおかか∗
女性/54歳/東京都/会社員
2020-06-20 23:59