今年もありがとう。
お盆には、いとこ親戚が次々とやって来た。
1ヵ月後に出産を控えた彼女は忙しくしていた。
人手が足りないとお茶だしやらお客さんの相手をしながら、手のかかる2人の息子を見なくてはならない。
お昼前、『違和感』を感じた彼女は、義妹に「来たかもしれない」そう告げると台所で踞った。
「お産婆さん呼んできて!」
義妹が叫ぶ。
小学生の甥っ子が自転車で20分程走って、お産婆さんに伝えに行く。
電話をすれば済む話なのに…。
まさにてんやわんやの大騒ぎ。
子供たちは突然の騒ぎに泣き出し、大人はパニック。
「坊さん来たよ。法要始まる。早く集まって」。
一番落ち着き払っていたのは、8人も産んだ義理の母。
「よりによってこんな日に!」
兄嫁の一言に
「慌てん坊なんだな」
義理の母が笑う。
お産婆さんの到着を待たずに生まれた赤子。
甲高い泣き声が平屋の古い家に響く。
上の子たちよりお腹の中でよく動く「暴れん坊」だからきっと次も男の子だろうと思って彼女は、男の子の名前を用意していた。3人目は自分で名付けるとずっと心に決めていた。
けれど生まれたのは、よく泣く女の子。
女の子の名前は用意してなかった。
さてどうしたものか…。
結局、生まれた子に名前をつけたのは3人目も義理の母だった。
ありふれた、普通の名前。
それでも彼女は、その名前を呼びながら自分の『小さい味方』を愛しく抱きしめた。
何度か母が考えてくれた名前を聞いてみたけれど、ひとつとして教えてくれませんでした笑。
今年も1つ、歳を取りました。
お空に向かい、ありがとうと伝えます。
だいぶ図々しくなったあなたの『小さい味方』より、と笑。
∗うめおかか∗
女性/54歳/東京都/会社員
2020-08-15 00:43