全力ペダル案件(後編)
第九章
春休みに入ってから、僕はいろいろ考えました。「返事をくれないのはダメじゃないからなのか。」「でも、好きだと思う相手から告白されたら、春休み前に返事をしたいと思うのではないか。」「だとしたら、やっぱり嬉しいとは思っていない確率が高いだろう。」そんな気持ちを抱えたまま何日か過ぎて行きました。
第十章
春休みのある晴れた日、僕は自転車で出掛けました。出掛けたと言っても最初は特に目的はありませんでした。
引っ越してきて三ヶ月近く経ちましたが、付近の地理はあまりわかっていませんでした。ただ、駅の向こう側に「さくら通り」という道路があって、桜並木が延々と、ふたつ先の駅の近くまで続いていることは知っていたので、見てみようかなと思いました。
第十一章
土日には「桜まつり」が開催されるその道は、平日の午前中は人も車も少なく、自転車で走るには丁度よい環境でした。道の両側から伸びる満開の桜が道路を覆った「桜のトンネル」が、春の日差しを受けてキラキラと眩しく輝いて見えました。
第十二章
僕はそれまで見たことの無い美しい風景の中に向かって自転車のスピードを上げて行きました。
初めての「告白」の結果はまだわからないけど、
運動能力は低い僕だけど、
今は全力で自転車のペダルを漕ぐしかないと思いました。
(完)
ファーストオーシャン
男性/62歳/千葉県/会社員
2021-05-05 16:48