獄上の時間案件 〜忘れたいあの時間〜
本部長、秘書、お疲れ様です。
私がもう忘れたい出来事は、高校三年生の時、新しく赴任してきた女性の先生がいました。笑顔がかわいくて、私はすぐに好きになっていました。その年の文化祭で、その先生が、模擬店の担当になり、エプロン姿で校内を歩いていた時に、写真を撮らせてもらい、住所を教えてもらい、年賀状のやり取りをしていました。私が卒業してからは、二年ほど年賀状だけのやり取りをしていましたが、それだけでは物足りなくなった私は、何を思ったか、手紙に「私は癌です。あと何年も生きることは出来ません」と嘘の内容を書き、送ってしまったのでした。私としては、驚かせて、反応が来たらもっと親しい関係になれるのでは無いかと、気を引きたいだけの手紙でした。ですが、悪いことは出来ないもので、私が外出している時、その先生が実家に電話してきたのでした。母親が電話に出て、私が元気であることを告げたそうです。結果、嘘はバレてしまい、私は気まずい思いしかありませんでした。それからと言うもの、先生に手紙が出せなくなり、嘘をついてしまったことも謝れないまま、30年が過ぎてしまいました。風の噂では、結婚されて、実家を出られたとのことで、先生と連絡を取ることは出来なくなってしまいました。あの時、あんな嘘をつかなければ、今でも年賀状くらいは、やり取りしてもらえたかもしれませんね。先生に、嘘をついてしまったことを、すべて忘れたい出来事でした。
ふわふわクッキー
男性/52歳/東京都/自営・自由業
2021-06-17 08:04