大好きな街で生きていく(1)
本当に唐突だった。もうすぐ最終日が近付くデザインあ展にいつ行くか、3時間前までテンポの良いラインをしていたというのに。
『もう連絡できません。家にあるシャツや俺の物は捨てて下さい。』
なんのドッキリ?誰かと飲んでるの?
すぐに電話しようとしたが、もし周りに彼の友達がいたら『もお〜!』とノリよく怒らなくてはならない。仕事でクタクタの私にその元気はありませ〜ん。タンクトップになり、ベランダへ向かう。
一服したら、お風呂に入って、また後で返信しよう。
彼と初めて会った時、こんなにタイプの顔の人が世の中にいたのか、と思った。かっこ良すぎるというわけではないが、余計な物がついていないというか、何も強調していないというか、無印良品で売られていそうな顔だった。
タイプは?と聞かれたら容姿だけで言えば彼と即答したし、後に彼は容姿だけでなく中身も素敵な人だと知った。
かつて住みたい街ランキングで不動の1位に輝いたその街で、二人の中の丁度良い居酒屋を探し続けた。この街には安い、旨い、人情味、おしゃれ、場末、しっぽり、大衆、とにかく様々な居酒屋があったが、外れは本当に少なかった。
今思えば彼がいたからどんな居酒屋でも最高な空気に変わったのだと思う。
今日だって、きっとあの街で男友達とバカ笑いしてるんだ。駅近だったらいいけど、今日は金曜日だし、同僚と飲んでるなら多分駅から少し外れた小料理屋かな。あそこお酒飲める人だと分かると焼酎めっちゃ濃くして出すんだよなあ。終電逃さなきゃいいけど。
誕生日に女友達から貰ったLUSHの入浴剤は思った以上に泡立って、気合い入れて掃除しないとなと思っていた。
送られてきた内容について、全く物怖じしなかった。絶対なんてこの世に1つもないのに、二人の関係は絶対的に約束されたものだと思っていた。
髪を乾かして、もう1度ベランダに出る。
彼が電話に出たら雑音に耳を傾け、一発でお店を当ててやろう、と意気込む。
しかし、彼が電話に出ることはなかった。
それどころか彼の声を聞くことすら、2度となかった。
乾杯ハイボール
女性/31歳/大阪府/会社員
2021-07-08 22:55