大好きな街で生きる(4)
大好きだった彼の私物は全部捨てて、『言われた通り全部捨てたけど、私の置いてった私物は全部返せよ。』とラインを送った。
もちろん既読はつかなくて、お気に入りの香水も、スカジャンも、眼鏡も、お揃いのスニーカーも、全部返ってこなかった。
象の置物だけは返すからマジで私物は返してくれ〜と思いながらゴミ置き場に向かった。罪のない物を処分するのは良心が痛んだけど、ちゃんと象の置物も捨てた。
おまけのように付け加えた『次どこかで会ったら覚えとけよ』のメッセージは今でもたまに見返して、これご飯食べられなくなった人の言葉かよと思っては笑っている。当時の自分に生かされている。
毎晩泣いていた私に今会えるならそっとぎゅっとハグしてあげたい。
引っ越した先は本当に何もかもが新鮮で、何より私の黒い感情を全て笑いに変えてくれた。ボケもツッコミも英才教育を受けてきた人達はやっぱり違うなと感心した。
ぐんぐん周りの人達から栄養を貰って、元の私に戻っていた。美味しくお酒も飲めるようになったし、最近では趣味を聞かれたらキッチンドランカー!と答えるくらいまで元気になった。
『俺は絶対急にいなくなったりせえへんし、悲しませへん。』
そう言ってくれる異性にも出会えた。
正直心から信じているかと言われたら全くそうではないけど、お散歩中の大型犬をマダムに撫でさせて貰ったら報告したいし、好きなサンドウィッチの具は何か聞きたいし、出来ることなら悲しいことがあった時は誰よりも近くにいて欲しい。そんな人に出会えたのだ。やはり当時の私に生かされている。
今でも居酒屋で1杯目ビールでなくハイボールを頼む人を見ると彼を思い出すけど、確実に私は前を向いて歩き出している。
例え彼から連絡が来たとしても、あの時『次どこかであったら覚えとけよ』と送った手前、それ相応のことをさせてやりたい。例えば、我々の友人全員にポケモンのワザを4つ覚えさせるなら何が良いか1晩で考えてこい、とか。もちろん私が納得しなければやり直しだが。
そして『やっぱり私最高だから、めっちゃ良い男できたわ!当時は迷惑かけてごめんな!今本当に幸せ!がはは!』と笑って大ジョッキのハイボールを豪快に飲んでやろうと思っている。結局これが1番の復讐なのである。
乾杯ハイボール
女性/31歳/大阪府/会社員
2021-07-08 23:02