秋ですよ
朝、ベランダに出てすっとした空気を吸い込む。
毎朝決まった時間にベランダで煙を燻らす私は、日々地球が公転しているのを感じている。
気付いたら蝉の煩さはもうずっと前のことのようだ。
なんてきらきらした日常はなく、いつもベランダから渋滞する大通りを眺め、働き蟻の行列みたいだな、と思う。あと少しで私もあの列に並ばなければならない。出勤の朝はどんな風を感じようと憂鬱なものは憂鬱なのである。
夏が終わったと感じたのは、私のモーニングルーティンの最中でなく18時の終礼である。
陽が落ちるのが早くなり、何でこんなに暗くなっているのに仕事をしなくてはならないのだとパソコンにメンチを切りながら思う。暗くなる前に帰っておいで、友達のまなみちゃんの家に遊びに行く前に母が良く言っていた。28歳にもなると誰もそんな事は言ってくれない。何が働き方改革だ。終礼をしてもパソコンの電源は切れず、電話が鳴ればワンコールで取る。お客様を第一に考え、常に寄り添う、まさに弊社こそ優良企業だ。
帰宅し、こんなご時世である為、一番に洗面台に向かう。仕事に穴は開けられない、体調管理こそ社会人の基本である。
濡れた手を拭くとすぐにパンツスーツのベルトを緩め、冷蔵庫を開ける。1日中冷えた世界にいたこいつだけは私のことを裏切らない。プルタブに手を掛け一気に喉に流し込む。今日も優勝、ありがとう、最初の5口以外はきちんとグラスに注ぐのが私の拘りである。
1本ビールを空ける前に、グラス片手にベランダに出る。
本日の業務が終わった働き蟻たちを眺め、今日も私達頑張ったね、と煙草を口に咥える。朝感じた風よりも、22時の風の方がずっとずっと心地良いのは、きっとこういう事なのだ。
乾杯ハイボール
女性/31歳/大阪府/会社員
2021-09-17 00:28