案件
はじめはそれがなんの香りなのか分かりませんでした。
ただ、その香りをかぐと毎年夏休みに会いに行っていた祖父母のことを思い出します。
正確には、祖父母の家近くの地方デパートのケーキ屋さんを思いまします。
けれどそれはケーキ屋さんの香りではありませんでした。
ケーキ屋さんの向かいのお茶屋さんでお茶を焙じる香りだったんです。
毎年夏に祖父母の家で誕生日を迎えていた私は、いつもそのデパート内のケーキ屋さんで注文をしていました。
キラキラのケーキに目を奪われつつ、背後のお茶屋さんにから香ってくるほうじ茶の香りが、いつしか記憶の中で結びついたようです。
その後大人になるまでお茶を焙じているお店に出会うことがなく、あるときふっと鼻先をかすめた匂いで記憶が鮮明にフラッシュバックし、あれはケーキの匂いでなく、お茶の香りだったのだと気づいた時は衝撃でした。
もうそのデパートは無くなってしまったのですが、お茶を焙じるの香りをかぐたびに懐かしい幸せな記憶がよみがえります。
トビウオ
女性/44歳/東京都/専業主婦
2021-12-21 16:59