困ったシチュエーション
或る女性が、まるで独り言のようなトーンで話し始めた。
プライベートな領域に入り込む話題で、受け取りようによってはシリアスな方向に転がりそうな内容だった。
でも、その女性本人の語り口からはどうもそういう意図がなさそうに感じた。つまり、シリアスな話にはしたくないから茶化してくれた方が気楽になるんだけど……みたいな雰囲気が醸されていた。
なので私は、別に茶化すつもりはさらさらなかったのだけれど、ユーモアのつもりで冗談っぽい言葉を返した。
彼女は自虐を含んだ感じで苦笑い。そして「ありがとね」と。
そこに居合わせた男、歳は私と同じくらいなんだけれど、彼は私の返した言葉を冗談ともユーモアとも受け取らなかったらしい。
それはそれで仕方がない。言葉の意味を決めるのは言葉を発した人間ではなく、言葉を受け取った人間の方だから。
それだけならまだ良かったのだ。何も問題はなかった。
ただ「通じなかった」というだけのことだった。
困ったことに彼は、私の冗談めかして言った言葉に対抗するように気色ばんで、過分に自己主張を含めたクソ真面目な返しをしてきた。
場の空気が冷めた。
話題を持ち出した女性はその場を取りなすように、さりげなく彼をフォロー。
フォローされたことで彼は我が意を得たりと、得意げに更に自己主張を繰り出す。
もう返す言葉もなく。
というより、バカバカしくなって相手にする気も失せた。
こんな時の気まずい空気感、これには本当に困ってしまう。
鴻の親父(おおとりのおやじ)
男性/66歳/埼玉県/居酒屋やってます
2022-02-23 23:32