鳥取砂丘
焼きあがる直前に漂う香ばしい小麦の香り。
パン焼き器のブザーが鳴った。
朝食用の食パンが焼けた♡
…と思った。
フタを開けるとこ〜んがりフワッの出来立てアツアツ食パンと「おはよう!」と目が合う、はずだった。
が、どうもパン焼き器の中で事件が起こったようだ。
不慮の事故とでもいうべきか?
イヤ、過失だろうか?
寝起きのアタマでスイッチを押すという行為から、『未必の故意』とも言えるかもしれない。
まぁいい。自身の糾弾はさておき、現場を処理しなければ。
ベージュ色の物体がパン焼き器の壁に沿うように張り付いている。
それはまるで精巧な鳥取砂丘のミニチュアモデルのようだ。
現場の状態から、犯人は水を忘れたものと思われる。たった150mlの水を。
室内に防犯カメラは設置されていない。客観的証拠も物的証拠もない。
が、すぐに取調室のスチールの机に肘を落とし頭を抱えて自供するだろう。
「あぁ、なぜあの時…」と。
寝起きという当時の状況から情状酌量の余地はあるだろう。
夏休みだし、と奮発して買った『パン焼き器用のプレミアム・ミックス』。
高級食パンがフンワリと焼きあがるはずだった。
が、現れたのは鳥取砂丘。
新幹線に乗る手間なく名所旧跡を巡る旅か?
出雲大社にも寄っていきたいものだ。
くみ
女性/65歳/東京都/黄色くみ広報室長
2022-08-12 10:35