言葉はいらない
私は特別養護老人ホームで介護士をしています。私が担当している利用者さんに、失語症でほとんど言葉を発することができないAさんがいます。
Aさんはいつも穏やかですが、自分の気持ちを伝えられないもどかしさを感じていらっしゃるようでした。
ある日の夕方、私は記録作業を終えてフロアを見回っていると、窓際でAさんが寂しそうな表情で外を眺めていました。私は静かにそばへ行き、「Aさん、夕焼けきれいですね」と声をかけました。
Aさんはゆっくり顔を上げ、私の目を見て、とても嬉しそうな笑顔を見せてくれました。
そして次の瞬間、普段はほとんど感情を表に出さないAさんが、私のユニフォームの袖口を、人差し指と親指で、そっと、優しく掴んだのです。
その時、かすかに「あ…」という、喜びと安心感が混ざったような小さな声が漏れました。
言葉はなくても、「来てくれて嬉しい」「安心した」という心の声が、私にははっきりと聞こえました。そのピュアな愛情表現に、全身が温かくなり、まるで少女のように胸が「キュン」とときめきました。
自分の存在が、この人の心の拠り所になっていると感じた瞬間です。
右の肩に神輿コブ2つ
男性/40歳/埼玉県/休職中
2025-12-09 17:43

