社員掲示板

何でも質問してくる男の子

引越しが好きだった。

独身の頃は、部屋の更新料を払ったことは一度もなかった。その年の春も、僕は引越しをしていた。
節約のためということもあったけれど、繁忙期の引越し屋との日程調整がうまくいかず、結局、ほとんどのモノを自力で運搬し、冷蔵庫や洗濯機などの大きいモノだけ赤帽に頼むことにした。

高円寺の南から北へ引越すだけの話だ。滑れもしないスケボーを引っ張り出して、台車代わりにした。
麻布や神楽坂のような、気品あふれる街では、スケボーでの引越しは禁止されているだろうが、高円寺はそれが可能であり、好奇の目で僕を見てくるような人はいなかった。
退去する高円寺南のアパートで、スケボーに荷物を積み上げていると、小さな男の子が話しかけてきた。
『お兄ちゃん、なにしてるの?』
深い質問だった。自分が、何をしているのか、何をするべきなのか、わからなかった。
夢を諦めて、定職に就いたばかりだった僕は、答えられなかった。

運搬を終えて戻ってくると、まだ男の子がいた。
『お兄ちゃん、どこへ行くの?』
深い質問だった。自分がどこへ向かっているのか、東京に来た意味すらも、わからなかった。
『お兄ちゃん、だれなの?』
深い質問だった。自分が何者なのか、わからなかった。
『お兄ちゃん、またあそぼ!』

男の子は、今いくつになっただろう。二十歳くらいかな。わかったと思っていたことが、急にわからなくなる頃かな。たくさん質問をして、賢くなっているんだろうな。

北岳に来ただけ

男性/38歳/東京都/会社員
2026-03-24 10:32

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