エリーのハードボイルド日記 その拾肆
俺が師と呼ばれるには訳がある。
俺の名刺には、二つの「師」という文言が入っている。
「師」とは、つまり、教え、伝え、広めること。
「師走」とは、よく言ったもんだ。
12月に入ってからというもの、俺は、毎日のように走っている。
男ってのは、走ってなんぼだ。
走らないやつは男じゃないと言っても過言ではない。
トレンディドラマでも、いつだってイケてる男たちは走ってきた。
その足は何の為にあるのかと問われれば、俺は迷わず答えるだろう。
「走るためだ」と。
俺は、今日も走る。
走る理由は様々だ。
カレー粉を買いに行ったり、お好み焼きのソースを買いに行ったり、そばつゆを買いに行ったり、財布を忘れて取りに戻ったり...いろいろだ。
そもそも、その料理に致命的なものを買い忘れるのであれば、これはもう走らざるを得ない。
しかし、俺は、「師」と呼ばれる人間だ。
やはり、走りながらもプライドが頭をもたげる。
...ん?俺は、何の為に走っているのか?
作るのであれば、いっとう最初に買っておいてしかるべきでは?
俺は、走る速度を落とす。
時には、歩いて、ゆっくり周りを見渡すことが必要なんじゃないか?
そう。歩くといろいろなことに気付く。
変わり光の色合い。明日に向かって伸びてゆく影。
風向きや、鳥達が巣に帰る様。
心が、ゆっくりほどけていくようだ。
おっと。電話だ。ちょっと待ってろ?
...え?どこで油を売ってるんだ?
いやいや、さっき買って今から帰るとこだよ。
え?走れ?
いや、走ってましたよ...。
え?走ってるなら、電話なんか気付かないはずだ?
...じゃあ、なぜ電話してき...あ、はい。はい。
超特急で帰ります!
エリーマイラヴ
男性/45歳/東京都/総帥(so sweet)
2015-12-06 22:32