エリーのハードボイルド日記 その弐拾壱
男とは、常に懐を深く持ってなくてはならない。
懐が深いと活力がみなぎり、愛と情がほとばしり、余裕がにじみ出る。
俺は、そんな男をいつも目指している。
俺の懐は、空のように広く、海のように深い。
今朝の大雪。首都圏の通勤は大打撃を受けた。俺は、バイク通勤を諦め、完璧に外気をシャットダウンした服装で、意気揚々と出勤した。
すべる人、立ち往生する車、電車運休の電光掲示板、混雑する交通機関の出入り口...。
そこらじゅうで電話やメールをしている人々。どうにもならない怒りを、駅員にぶつける群衆。ホームや階段に溢れかえる人。
我先に人を押し退け、ドミノ倒し寸前のホームや階段。
怒声や注意する声。
まさに、地獄絵図。
しかし、俺クラスになると、このような状況すら、楽しむことができる。
見よ。この人間達の悲しい生き様を。
俺も含めだが、全く動かない人混みを、寒さに耐えながら、会社や仕事にしがみつき、責任や使命感を背負って前へ進む様は、滑稽にすら思えてくる。
目的を果たすために手段を選ばない...的な?
これが、通勤ではなく、火事や事故や、天災だったらいかがなものか...。
俺は、これを試練だと思うことにした。
そして、霊長類の中で最も高尚な生き物であるはずの人間が、本来このような時にどう行動すべきかを考え、自問自答している。
おっと、ちょいとばかりはばかりに行きたくなったなぁ。
無理もない。もうかれこれ一時間、寒い中で立ち往生しているのだ。
ちょっと待ってろ。
えっと...トイレは、あぁ、あっちか。
距離にして10メートルってとこかな...余裕余裕...よ...
...余裕...でもないな...
待てよ。ここで漏らしたら、ちょっと温かいんじゃないかな...いやいや、いかんいかん、一瞬で凍えてしまうわ。
寒くて思考回路がショート寸前だな...。
しかし、ちっとも進みやしない...。
こんなとき、広く深い膀胱を持ってればなぁ...。
このまんまじゃ、オションションがほとばしり、にじみ出ちゃうよ!
すいませーん、ちょいとどいてくれませんかねー!!!
エリーマイラヴ
男性/46歳/東京都/総帥(so sweet)
2016-01-18 20:28