本日の案件
皆さん、お疲れ様です。
以前、日雇いのバイトをしていた時に、知り合ったバイト仲間のおじさんが、「今度本を出版することになった。」とおっしゃったので、「すごいですね。おめでとうございます。是非読んでみたいです。」と僕も心からの祝福を伝えました。
すると、おじさんは、「今度の日曜に出版社の人と○○ホテルのラウンジで会うことになっているから、その前の時間に原稿を見に来るかい?」と言ってくださいました。
そして日曜になり、約束の場所に行くと、おじさんがホテルのロビーのソファーで待っていて、「これなんだ。」と言って一冊のノートを僕の前に差し出しました。
その本には、家族に逃げられたおじさんの住む家に住み着いた猫と、いつしか猫が増え続けて猫屋敷になってしまったことが、稚拙な文章と幼稚園児が描いたような挿し絵と共に綴られていました。
僕は、ページをめくる度に目眩のするような思いでその本を読破し、「何か...上手く言えないですけど...ピュアですね。出版されたら、買いますのでサインしてくださいね。」というお世辞をやっとのことで絞りだしました。
おじさんは遠い目をして、「ここまで長かったけど、ようやく初版の出版料を半分払うことで、出版にこぎつけたんだ。」と言いました。
出版社の人との待ち合わせの時間が近付いてきたので、僕はお礼を言って立ち去ったのですが、どうしても気になってしまい、悪いとは思いつつも少し離れた場所でおじさんを見ていることにしました。
案の定僕の恐れていたことが起きました。
20分を過ぎても、30分を過ぎても、誰もおじさんに声をかけることはなく、ホテルのウェイターがコーヒーのおかわりを勧めるのを断った後、おじさんが肩を落として帰っていく一部始終を僕はずっと影から見てしまいました。
あの日以来おじさんに会ってはいませんが、僕のお世辞が彼を傷付けてしまったのではないかと未だに切なくなる出来事です。
エリーマイラヴ
男性/46歳/東京都/総帥(so sweet)
2016-05-30 16:08