家出
二十歳位の時だった。
医師の深刻にそうな顔で告げられた。
「左足は、もう二度と曲がらないかもしれません」
頭が真っ白になった。
入院中、同じ病院内で祖父が息を引き取った。
ギプスで膝を固定されたまま退院して戻った実家で待っていたものは、
遺産争いだった。
かつては4世帯で旅行に行ったほどの仲はバラバラだった。
実家のはす向かいにあった祖父の家では醜い争いの応酬。
「もうやめてちょうだい!!」
泣き崩れたのは祖母だった。
一旦騒ぎも収まり実家に戻ると母親は自分の兄弟に対しての愚痴を吐き出していた。
『ここはホームじゃない』
時刻は午前1時をまわっていたが、咄嗟に家を飛び出していた。
もう曲がらないかもしれない左足を引きずり篠崎から14号を西へ向かう。
―俺のホームはどこだ?―
荒川を越えると、夜桜が眼に映った。
「ここも違う」
更に西へ向かう。
亀戸を越え、錦糸町を越え、気がつくと、両国にたどり着いていた。
「あそこか…」
がむしゃらにホームを目指す。
疲れきった左足をかばいながら階段を必死にのぼる。
階段をのぼりきった所に待っていたもの、それは、
両国駅のホームだった。
みっく。
男性/45歳/千葉県/アホだけど良いオトコをめざしちゃうハッピーなドライバー略してアホ
2016-07-06 20:55