エリーのハードボイルド日記 其の参拾弍 上の段
俺は美しいものが好きだ。
美しい風景、美しい色、美しい流れや匂い、美しい響き、美しい旋律....。
風も星も月も空も雲も木々も遠くの山肌も花も川も海も生きとし生ける全てのものとそれらが織り成し造り出す美しいものたち。
世界は美しさで溢れていて、素晴らしい。
話は変わるが、人は葛藤する生き物だ。
心の中に、空のような海のようなものを持っていて、時には雲で覆われ、時には高く波立つ。
理性と野生がせめぎ合い、まっさらな空や凪へ向かってうねっているかのようである。
それらもまた、美しさと言えよう。
美しいものの美しさを知り、葛藤し、その葛藤のうねりすら美しさと捉える。
これも男の生き方である。
昨夜のことだ。
俺は珍しく電車に揺られて帰路についた。
いつもなら快速に乗るところを、各停に乗り、ゆっくり帰ることにした。
時にはゆったりした気持ちで過ごすことも男として必要である。
え?家に早く帰りたくないだけじゃないかって?
....そんなことはない。男には時として休息が必要なのだ。
ふと目を上げると、向かいの席に美しい女性が座っていた。
美しい髪とキューティクル、美しい目を美しい睫毛が伏せていて、額の広さや頬の膨らみ、美しい鼻筋から、こぼれ落ちるような唇にルージュ。
首筋と露にした鎖骨、彼女の呼吸と共に小さく上下するネックレス。
美しい腕から指先、太ももから爪先。
美しい素材の主張しない衣装が、かえって彼女の美しさを引き立てている。
あぁ、何て美しいんだ。どれ、もう一度頭のてっぺんから見てみよう。
....そうして、また彼女の顔に目を移したその時、こちらを見つめ返す彼女の視線に気付いた。
つづく
エリーマイラヴ
男性/45歳/東京都/総帥(so sweet)
2016-08-27 09:27