エリーのハードボイルド日記 其の参拾弍 中の段
人と目が合った時、あなたならどうしますか?
俺は、然り気無く微笑むことにしている。
あなたに敵意はないよ、あなたのどこかに美しさを見付けたんだよ、俺は決して変な人じゃないよ....そんな思いをありったけ込めて、あくまで然り気無く微笑むのだ。
大概は、その然り気無い微笑みで円くおさまる。
然り気無い微笑みは、長年の鍛練が必要だ。
俺も初めの頃は、「おい、馬鹿にしてんのか?!」という視線を返されたものである。
しかし、僕の向かい合う席に座っていたその美しい女性は、その時俺に向かって然り気無い微笑みを返したのである。
俺は心の中で絶句した。
美しさという言葉から生まれてきたような彼女は、俺が長年の鍛練により会得してきた微笑みを一瞬で俺に返してきたのである。
年の頃は20代半ばといったところか。
この年齢であの微笑みを会得しているとは....侮れないものである。
そして、その微笑みもまた、美しい。
話は戻るが、人は、葛藤する生き物である。
特に男は、常に葛藤の中にある。
この場合、俺は瞬く間に葛藤の渦の中に放り込まれたことになる。
ー声をかけようか?
ーいや、何て話しかける?
ー変な人と思われるのでは?
ー電車に乗っている他の人達に変に思われる?
ーけど、こんな美しい女性にまた出会えるか?
ー仮に話しかけることができたとして、その後どーすんの?
男とは、葛藤する生き物である。
そして、その葛藤すら、美しい。
....おそらく。
そんなこんなで、俺の降りる駅に電車は近付いてきた。
俺は、電車を降りなければならない運命を呪う。
俺は、名残惜しくも視界の端に美しい彼女を捉えながら、ゆっくり立ち上がった。
すると次の瞬間、彼女が立ち上がるのが見えたのである。
その所作すら美しい。
視界の端でも分かる。
つづく
エリーマイラヴ
男性/45歳/東京都/総帥(so sweet)
2016-08-27 09:50