エリーのハードボイルド日記 其の参拾弍 下の段
駅の出口は2つある。
電車を降りたら、右か左かだ。
ここでも俺は葛藤する。
ー彼女が向かうのは右か左か。
ーいや、仮に同じ方向だとして、本当に話しかけんの?
俺は意を決して右へ向かう。
階段の踊り場で折り返した時に俺の視界が彼女を捉えた。
改札を出て、俺はまた葛藤する。
ー右か、左か。
俺にとっては、右へ行けば乗り換え、左へ行けば、ちょっと遠いが歩いて帰れる。
ー右か、左か。
....と思った瞬間、隣にその美しい彼女がいた。
彼女もまた右か左か迷っているようなそぶりである。
ーここだ。このチャンスを逃したら、俺は一生こんな美しい女性と出会うことはない....かも知れない!
俺は、ゆっくり彼女の方へ向き直る。
すると、彼女はこちらに微笑んで近付いてきた。
....と思いきや、俺の数メートル後方にいる友達に向かって駆け出していった。
そして、その友達もこれまた美しい。
その時だ。
俺の携帯がしたたかに震えたのは。
....もしもし、俺だ。
....え?どこで油を売ってるのかって?
....いや、美しいものを見ていてですね....あ、いや、駅前に美味しそうなイタリアンを見付けてちょっと見ていてですね....
....え?あの、各停に乗ったからちょっと時間がですね....
....え?....はい。ダッシュで帰ります。....はい。猛ダッシュですか?はい。
....はい。お休みなさい。
....夕飯?....はい。帰りに買って帰ります。
電話を切って振り返ると、彼女達の姿はもう見えなかった。
煌々とともる居酒屋の灯りが立ち並び、美しくも切なく、夜に浮かび上がっていた。
エリーマイラヴ
男性/45歳/東京都/総帥(so sweet)
2016-08-27 10:21