出張は大変
猛暑の中の出張というのは大変なもので、
1日得意先の嫌味な部長に見知らぬ土地のオフィスや工場を引っ張り回され、ビジネスホテルに戻ったのは10時を回っていた。
コンビニ弁当で腹を満たし、狭いユニットバスで1日の汚れを洗い流した後、フロントに電話をかけてマッサージを呼んでもらった。
10分間ほどで白衣に身を包んだ50歳過ぎの女性のマッサージ師がやって来た。
疲れが出て来たのか身体をほぐしてもらいながらウトウトと半ば夢の中で女性の話を聞いていると気になる事を話し始めた。
「ええ、だからね。昨年の末ですか。このホテルで心中があったんですよぉ。」
「や、やめてくれよ。俺ここで寝るんだぜ。」
「あらあら。ごめんなさいね。」女性は曖昧な笑顔のまま、マッサージを終えると金を受け取って帰って行った。
嫌な気分のままベッドに潜り込んだが、疲れには勝てずそのまま眠りについた。
「……」人の声がする?身体が動かない?
金縛りという奴か?恐怖が全身を包む。
「どこにいるんだ?」男の声…。
「あなた、どこにいるの?」女の声…。
若い男女が互いを探し合っているのだろうか?まさかあの女性が言っていた心中の2人…?
やがて2人の声の調子が変わった。
「見つけた。やっと見つけた。」
「ああ、やっと見つけたわ。」
再開を喜ぶ男女の声…。
何故かこちらまでホッとしてしまい、金縛りで開かない瞼を無理に開いて2人を見た。
血の気が失せて紫色の顔の男と頭から血を流して顔面の半分をえぐられた女がこちらを見下ろしながら、私を指差していた。
『やっと見つけた…』
貞っ子
男性/60歳/東京都/会社員
2017-07-10 01:32