畳
女性専用の賃貸マンションに引っ越して来た若い営業職の女性。
彼女がこだわったのは和室がある事だった。
普通の1Kバストイレ付きなら7万円前後で済んだ家賃も6畳くらいのフローリングに4.5畳の和室が付く事により9万近い家賃を払う事になってしまった。それでも彼女にとって1日の仕事を終え、疲れた身体を畳の上に投げ出す快感は何物にも代え難いものであった。
その夜も帰宅したのは夜の11時過ぎであった。
スーツの上着を脱いでそのまま畳の上に横になる。イグサの心地良い匂いが鼻をくすぐる。これだ。この感じだ。身体に纏わり付いている様々な物がスゥ〜と離れて行く。
頭を動かして横を見ると畳の目間から1センチほど髪の毛が出ている。髪の毛とは…。
少しだけ嫌な気分になりながら、その髪の毛を引っ張った。長い…。自分の髪の毛がこんなに深く畳の目の中に入り込むはずはない。
「嫌だわ。この畳新品だって言ってたのに!」
そして数日後。彼女は失踪した。
警察や家族、そして関係者達が幾度もこの部屋を訪れては手がかりを探した。しかし何も見つからなかった。
どう扱って良いのか頭を悩ます大家は、力無くため息をつくと戸締りを確認して部屋を出ようとした。すると和室の畳の目間から1センチほどの髪の毛が2本出ているのが見えた。しかしここは女性専用のマンションである。驚くほどの事はない。大家は部屋を出て鍵を閉めた。
幾多の怨みがこもった女性の髪の毛を編み込んだ畳は一体どのような恐ろしい事変が起きるのか、誰にも分かりません。
そんな畳をどこの誰が何のために造っているのでしょうか?
貞っ子
男性/60歳/東京都/会社員
2017-07-18 04:41