バイト案件
今からちょうど45年前(古っ!)、私は中学2年生。海外の短波放送が聴けると謳い文句のラヂオがどうしても欲しくて欲しくて……親には内緒で新聞配達のアルバイトに。内緒と言っても3日目にはバレましたが。
配達に慣れてきた夏休みの始めの頃、事件発生。
とあるアパートの敷地に入って、自転車のカゴから朝刊を3部手に取り、階段に向かったところ、建物の角から野良犬が一頭、二頭、いや、三頭と出てきました。その当時、街中でも野良犬は珍しい存在ではありませんでしたが……そいつらはいかんせんデカかったんです。しかもそのうちの一頭は真っ黒で怖そう。
私は一瞬、怯んで立ち止まり、すると敵の三頭も立ち止まり、睨み合いとなりました。
私は後でまた配達に来ようと思い、一歩下がりました。すると突然、奴らは吠えながらこっちにむかって来たのです。
怖かったのですが、ここで逃げたら噛まれると思い、私も「ウォア〜〜!」と叫びながら右手に持った新聞を振り上げ、三頭に向かっていきました。
すると、奴らは唐突に方向転換し、私に尻を見せ、走って逃げていきました。
ホッとして朝刊の配達を無事に終えられたのは良かったのですが、その日の夕刊の配達でそのアパートに行った時、住人の奥様たちが私を見てクスッと笑いました。そして私にこう言ったのです。
「あの野良犬たち、アパートの玄関先とかに糞とかするから困ってたのよ。ありがとうね、野良のお兄ちゃん」
いつの間にか私はその界隈で“野良のお兄ちゃん”と呼ばれるようになっていました。
鴻の親父(おおとりのおやじ)
男性/66歳/埼玉県/居酒屋やってます
2017-07-27 14:47